日本溶射工業会

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溶射とは

現状と将来

  溶射法は大面積に厚さが数十ミクロン以上の厚膜を高速度で形成できる工業的に重要なプロセスであり、スイスでSchoop博士によって発明されてから約100年の歴史がある。成膜の原理は、原料となる粉末やワイヤーを種々の熱源によって溶融または半溶融状態にまで加熱し、ミクロンサイズの粒子として基材に投射して積層させるもので、原料として金属、合金、セラミックス、プラスチック、さらにはこれらの複合材料まで非常に幅広い材料を扱うことが可能である。このホームページで紹介されているように、産業界の実に幅広い分野で活躍しており、産業機器や構造物を過酷な使用環境から守る保護皮膜としての役割が重要であり、耐摩耗、耐熱、耐食・防食などの分野で確固たる地位を築いてきた。しかし一般の消費者が直接手にする製品に使われていることが少ないために、メッキや塗装に比べると社会的認知度は残念ながら高いとは言えない。
 他方、溶射プロセスについて、今日、我々は第二の飛躍期に遭遇している。日本溶射学会や国際溶射会議の発表を詳しく見ると上述した溶射の定義には当てはまらないプロセスがいくつも見受けられる。21世紀に入り、固相の粒子を衝突させて成膜するコールドスプレー、ウォームスプレーやエアロゾルデポジション法、液体に1μm以下の微細粉末を分散させた懸濁液(サスペンション)を用いたサスペンション溶射、さらには溶液を原料とした前駆体(プリカーサ)溶射などの研究開発が活発にされている。より大きな視野から考えると、原子、分子を堆積させるPVD、CVDなどの薄膜プロセスと従来の溶射の中間領域が開拓されている状況にあるとも考えられる。こうした新しいプロセスは、それでなくてはできないアプリケーションが出現すると産業界に定着する。新しい機能性皮膜としてのアプリケーションの出現が期待される。
 溶射技術の将来を考える時、技術・学術的な点だけでなく、経済・政治的側面も考える必要がある。日本の溶射業界は製鉄、石油化学、製紙、半導体、自動車等のあらゆる国内製造業とのビジネスの中で、新しいコーティングの機能を開発し、ユーザの厳しい品質・コスト要求を満たす中で世界でもトップレベルの競争力を涵養してきた。日本の製造業が溶射技術を鍛えてきたとも言えるが、日本の製造業の競争力の一端を溶射技術が支えてきたとも言える。TPPが締結された今後のアジア・太平洋地域の発展の中でも、我が国の溶射企業が適切なパートナーを見出してリーダシップを発揮し、ビジネスチャンスをつかんでいくことが期待される。その文脈において、国際規格(ISO)に関する活動の重要性が今後さらに高まっていく可能性が大きい。日本溶射学会と日本溶射工業会はこれまでも協力してISO活動を行ってきたが、今後、更に強力なチームワークが必要とされる。また、国際溶射会議(ITSC)やアジア溶射会議(ATSC)においても、継続的に日本の溶射技術の発表を行い、その優位性と存在感を発信していくことが重要である。加えてこうした会議の運営や招致にも中核的な役割を果たしていくことが期待されている。これらの活動が、日本の溶射技術や組織力に対するPRとなり各国から信頼されるポジションを築く基礎となるであろう。
 日本溶射学会は2010年に学会組織となったが、溶射は産業技術で純粋学術ではない。日本溶射学会と日本溶射工業会が協力しつつ、基礎となる学術・技術の発展とその産業的魅力をアピールし、次世代を担う人材の育成に努めていくことが肝要である。

2015年11月4日
一般社団法人 日本溶射学会 会長
黒田 聖治

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