基油を潤滑剤として用い、ボール・オン・プレート往復式摩耗試験機で測定した各皮膜の摩耗距離と摩耗量の関係を図2(a)に示した。同図(b)は相手材の摩耗量である。耐摩耗性が最も優れているのはWC-Cr3C2-Niと硬質クロムめっきで10000mの試験後の摩耗量は最も少なく、両者の差もほとんど認められない。測定値にややばらつきはあるものの、WC-CoCrとグレーアルミナが続き、クロミアの摩耗量はやや多い。クロミアは6000mから、グレーアルミナは10000mで摩耗量が急激に多くなっている。これは摩擦面が荒れ始めたためであろう。ハステロイC276は摩耗量が最も多い。これは無潤滑状態で行った実験結果と同じである。
相手材の摩耗については、WC系の2種類の皮膜とハステロイC276は相手材をほとんど摩耗させないが、硬質クロムめっき材は相手材をやや摩耗させ、アルミナとクロミアの2種類の酸化物セラミック皮膜は、相手材を激しく摩耗させる。これらの原因については、後で顕微鏡観察結果から詳しく考察する。 合成油を用いた摩耗試験の結果を図3に示した。同図(a)が皮膜の摩耗試験結果、(b)が相手材である鋼球の摩耗量である。基油を用いた場合と著しく異なる摩耗傾向を示したのは硬質クロムめっき材で、摩耗量は基油を用いた場合の約4倍に増加した。この原因は目下のところ不明であるが、めっき膜自体の品質のばらつきが考えられる。 相手材(鋼球)の摩耗量の傾向は、図3(b)を見ると、基油を用いた場合と若干異なる。クロミアは鋼球を著しく摩耗させるが、グレーアルミナは基油の場合の約1/3に過ぎない。 摩擦係数の測定結果の1例を図4に示した。摩擦係数の値が反転しているのは、往復運動であるためである。また、摩耗距離1000m毎における摩擦係数の測定結果を表2に示した。一般に、金属同士の潤滑下でのすべり接触での摩擦係数は約0.1と言われているが、本研究の測定結果では皮膜材質を問わずおよそ0.06から0.8の間の数値となった。これは皮膜と相手材の接触がほぼ流体潤滑状態にあるためであろう。 |
潤滑剤として基油を用いた場合の摩耗試験前後の表面の顕微鏡写真を図5に示した。同図(a)は硬質クロムめっき材である。試験前でも、研削方向と直角なき裂が認められた。試験後の表面はやや黒ずんでいるほかは著しい変化は認められないが、き裂密度が増加しているようにも見受けられる。硬質クロムめっき材は相手材を摩耗させたが、き裂が原因の可能性もあろう。同図(b)はクロミアである。同図では白い部分が増えているが、これは摩耗試験中、相手材によって研磨され、光沢を持った部分である。(d)はハステロイC276である。試験後は皮膜の部分的脱落や深い摩耗痕が認められ、図2で示した、摩耗量の多さに符合する。図5(c)に示したようにグレーアルミナでは、摩耗面がやや黒ずんだ程度で、大きな変化は認められない。試験の前後で表面の状態に何の変化も認められなかったのは2種類のWC系で、試験後も研削加工痕がほぼ変化なく残っている。耐摩耗性の高さが顕微鏡写真からも明らかである。
合成油を用いた場合の試験後の表面の顕微鏡写真を図6(a)〜(f)に示した。表面の状況が著しく変化したのはハステロイC276で、基油を使用した場合には、表面は凹凸が激しく焼付きも認められたが、合成油では深い穴があるものの、ほかの部分は平担であった。これは合成油には極圧剤などが添加されているために、表面の粗さは少なかったものの、粘度が低いために、皮膜の内部に浸透した合成油に相手材によって圧力が負荷され、破壊、はく離したものと考えられる。その他の皮膜では、基油と合成油で大きな差は認められなかった。 |
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