相手材がSi3N4球で基油を用いて摩耗試験を行った場合の摩耗試験結果を図7に、合成油を用いて試験を行った結果を図8にそれぞれ示した。図7,8でいずれも(a)は皮膜の摩耗試験結果、(b)は相手材の摩耗試験結果である。基油と合成油を用いた両方の試験でも二つのWC系皮膜と硬質クロムめっき材は摩耗量が少なく、かつばらつきも少ない。優れた耐摩耗性を示している。相手材が鋼球の場合と比較しても、ハステロイC276以外の摩耗量はほとんど変わらない。 特異な摩耗特性を示したのはハステロイC276で、相手材がSi3N4球の場合で潤滑油が基油と合成油では摩耗量がほとんど変わらないのだが、相手材が鋼球の場合と比較して摩耗量が約1/3に減少している。この理由が明らかではないが、ハステロイC276は鋼と凝着しやすいためではないかと考えられる。 各種のセラミックスの中でも最も靭性が高く、また今回試験した材料の中では最も硬さの高いSi3N4球自体の摩耗はほとんど認められなかった。Si3N4球の摩耗量が0となっている場合があるが、これは使用した精密天秤の測定精度が0.1mgであり、この精度では測定できなかった量の摩耗という意味である。 基油を用いた場合と合成油を用いた場合で、全般的には摩耗量に差は認められなかったが、これは試験条件がさほど過酷ではなかったためと考えられる。接触荷重はヘルツ応力で1kN/mm2でやや高いが、潤滑油で常に冷却されているため摩擦による温度の上昇も認められなかった。このような条件化では、高性能な合成油の特性が生かしきれなかった可能性もある。 摩擦係数を摩耗距離1000mおきに測定し平均した値を表3に示した。基油による潤滑下では、硬質クロムめっきと二つの酸化物セラミックス皮膜の摩擦係数がやや高い。合成油を用いた場合には硬質クロムめっきの摩擦係数は低くなったが、酸化物セラミックス皮膜の摩擦係数は高いままである。これは酸化物セラミックス皮膜では、摩耗距離が長くなるとともに、表面の粗さが増加するためであろう。 |
摩耗試験後の表面の顕微鏡写真を図9、図10に示した。図9基油を使用した場合、図10は合成油を使用した場合である。ここでは試験前の表面写真は示していないが、基油、合成油を使用した場合とも、表面が全く変わっていないのは、二つのWC系皮膜である。硬質クロム皮膜も研削条痕が残っているが、とくに合成油を使用した場合大きなき裂が発生している。ハステロイC276はSi3N4と相性がよいのか、試験後もとくに合成油を使用した場合、表面は荒れていない。鋼球が相手材のときに比べて摩耗量が激減しているのも、顕微鏡写真から納得できる。はるかに硬い酸化物セラミックスよりもハステロイC276のほうが優れた耐摩耗性を示すことを明らかにできたのは新しい知見と言えよう。 |
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