1.摩耗量と転動摩擦係数
摩耗量測定結果を図4に示す。摩耗量測定方法は、試験前と1.8×106回転ごと試験終了時まで摩耗量を測定した。摩耗量の測定から、耐摩耗性が最も優れているのは硬質クロムめっきで、次にWC-10%Co4%Cr、WC-12%Coが続き最後にWC-20%CrC-7%Niとなっている。各試験片の中で最も摩耗量が多かったWC-20%CrC-7%Niでは、3.6×106回転までは摩耗量が少ないがそれ以降5.4×106回転の間で急激に摩耗量が増加していることが分かった。しかし、摩耗量と皮膜が受けた損傷は別で、これについては断面顕微鏡観察の結果を基に詳しく述べる。
マイクロビッカース硬さ試験機で皮膜断面の硬さを測定した結果を表5に示した。硬質Crめっき材は硬さではどのWC系皮膜より低いが、耐摩耗性は優れている。WC系皮膜でも硬さと摩耗量には特に関係はなさそうである。
転動摩擦係数を測定した結果を図5に示した。これらの値はトルク変換機での測定結果を基に計算した。装置の関係で二つの軸受けの転動摩擦係数も含まれてしまうため、無負荷時の転動摩擦係数を測定し、試験時の値から差し引いて計算した。転動摩擦係数はおよそ0.025から0.1の間にある。WC-20%CrC-7%NiとWC-10%Co-4%Crでは、摩擦係数が |
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一旦減少しその後増加して、5.4×106回で増加しまた減少している。この傾向はWC-12%Coも同じである。硬質Crめっき材は3.6×106回で高い値となっている。これらの原因は相手材を含めて、接触面の荒れが原因となっているようである。相手材は前記のとおり、SUJ-2という硬い鋼を用いているが、皮膜に比べると硬さが低いために円筒面に直角な縞模様が発生した。つまり円筒面が多角形となってしまったために摩擦係数が増加したと考えられる。
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2.表面および断面の顕微鏡観察
摩耗量では硬質Crめっき材が優れていたが、表面および断面の観察結果は摩耗量の測定結果と著しく異なる。硬質Crめっき材は転動によって研削条痕は短時間で消え、平坦化されるが、1.8×106回ですでにき裂が発生している。回転数の増加とともにき裂も増え、き裂の発生によって段差が生じていることもわかる。したがって、表面性状は良くない。 |
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各皮膜の表面写真を図6,7に断面写真を図8,9に示したが、硬質Crめっき材の場合はき裂の発生と基材からのはく離によって皮膜が部分的に浮いた状態となっていることが分かる。WC-20%CrC-7%Niは硬質Crめっきに比べて高い硬さのため、1.8×106回転でも部分的にしか研削条痕が消えていない。1.8×106回転ですでにピットが発生している。しかし、7.2×106回転を過ぎるとピットの数は減少し、9.0×106回転では良好な表面性状となっている。これは摩耗量が多いことに起因していると考えられる。図9の断面写真を見ても、表面が最も平坦であることが分かる。WC-10%Co-4%Crは7.2×106回転までは最も優れた表面性状を示している。しかし、この回転数からややピットの数が増え、9.0×106回転でもピットが消滅することはなかった。断面写真からもやや浅いピットが見える。
三つの溶射皮膜を比較すると、WC-12%Co皮膜に最も多くのピットが発生していた。1.8×106回転ですでにピットが発生し始め、回転回数の増加とともに、ピットの数は増加し、大きく深くなっていく様子が表面および断面写真から分かる。
以上の結果を総合すると、硬質Crめっき皮膜では試験の初期からき裂が発生した。高々、180N/mm2程度のヘルツ応力でこのようなき裂が発生するのではロールとしての用途は限られるのではないかと考えられる。WC-12%Co皮膜では最も多くのピットが発生したため、ロールとしての性能は高くはない。ピットの発生の原因は、ラメラ間の粒子結合力の低さにあるのではないだろうか。WC系の中では、WC-20%CrC-7%NiとWC-10%Co-4%Crが優れていた。
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