1.転動疲労摩耗量
転動疲労によって発生した試験片の摩耗量を測定した。摩耗量の測定方法は、試験前、1.8×106回転ごとおよび試験終了(1.8×107回転=200時間)に行った。前述したように電子天秤を使用して質量を測定し、試験前の試験片との質量差から求めた。質量測定前は条件を一定にするためアセトンで脱脂した。その後、十分に乾燥させた状態で行った。測定結果を図7に示す。 |
図7 摩耗量測定結果 |
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同図によると3種類のWC系溶射皮膜の摩耗量に大きな差は認められなかった。 |
2.転動摩擦係数
転動摩擦係数は、動ひずみ測定器によって試験前と1.8×106回転ごとにトルクを3600sずつ測定した後、計算によって求めた。装置の関係で二つの軸受けの転動摩擦係数も含まれてしまうため、無負荷時の転動摩擦係数を測定し、試験時の値から差し引いて計算した。測定結果を図8に示す。
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図8 転動摩擦係数の測定結果 |
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転動摩擦係数はおよそ0.01から0.045の範囲で激しく変動している。この原因は試験片表面に微細なピットが多数発生することによって、試験片が多角形のような形状になること、および試験片に比べて硬さが低い相手材がやはり多角形状に摩耗することがあげられよう。
また、転動摩擦係数自体もころ軸受けのように完璧に研磨された円筒体に比較すると一桁大きい。
3.残留応力測定結果
残留応力の測定結果を図9から図11に示した。前述のとおり残留応力は、各試験片の円周上の8点で、1.8×106回転ごとに測定を行った。横軸が累積回転数、縦軸が残留応力値である。同図中赤い線が8点の平均値、その他の色の線は各8点を示す。
残留応力値は転動疲労試験を行う前から圧縮である。これはHVOF法による成膜過程でWC粒子によるピーニング効果が発生しているためであろう。転動疲労試験中は圧縮応力が著しく変動している。この変動は後述する試験片表面のピットの発生状況と照らし合わせると、ピットが多数発生している場合残留応力値は低く、ピットが少ないとき、残留応力値は高くなる傾向があった。
図9 X線残留応力測定結果(WC-12%Co) |
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図10 X線残留応力測定結果(WC-10%Co-4%Cr) |
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図11 X線残留応力測定結果(WC-20%CrC-7%Ni) |
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4.顕微鏡観察結果
前述のとおり、試験前および1.8×106回転ごとに光学顕微鏡での表面観察、試験前、試験後(1.8×107回転=200時間)に断面観察を行った。ここではまず、試験後の各試験片の表面写真を図12から図14に示す。いずれも450倍と1000倍での写真で、
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図12から14で黒い部分がピット、つまり皮膜の一部がはく離してできた穴である。こ
れは断面の観察結果からも明らかである。
今回の実験条件下では、皮膜のはく離あるいははく離の前段階のき裂の発生は認められなかった。皮膜が損傷する過程としては、ピットの発生>摩耗によるピットの消滅を繰り返しているように見受けられた。前述のように、この過程で残留応力の増減が持ちきたされるのであろう。
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